投稿者 undecuplet | 2010/05/28

史上最高のコーラス・グループ~シンガーズ・アンリミテッド:EVENTIDE

シンガーズ・アンリミテッドは僕の中では、ある種の原点である。どういう風に原点かというと自分でもなかなかうまく説明できないのだが、彼らのコード、転調、多重録音の感覚・・そういうものを総合したアレンジの感性があまりに見事にフィットしていて、こころに響くのだ。家に彼らのLPが1枚あって、すりきれるまで聴いていたこともあるだろうけれど、街で彼らの音楽の断片が何かの拍子に聞こえてくるだけで、からだが反応し、そちらの方を向いてしまう。それほど好きなのだ。

TAKE6も、マンハッタン・トランスファーもインタビューでよく影響をうけたアーティストとしてシンガーズ・アンリミテッドをあげている。確かにシンガーズ・アンリミテッドがいなかったら、いまの彼らを想像するのは難しい・・と思われるほど、ア・カペラのすべての試みがすでに、シンガーズ・アンリミテッドによってなされているといってもいい。

テイク6が、生身の人間を尊重した、まさにライヴならではのグループとすると、シンガーズ・アンリミテッドは決してライヴをしなかった、レコーディング専門のグループだ。それゆえのある種のピュアーな突き詰めた緊張感が、彼らのすべてのアルバムにある。それにしても彼らのア・カペラのアレンジは見事なのだが、今回はまず、貴重なオーケストラとのアルバムの方ををとりあげてみようと思う。

EVENTIDE
THE SINGERS UNLIMITED
(ROBERT FAMON : ORCHESTRA ARRANGED AND COND.)
シンガーズ・アンリミテッド 愛のフィーリング

1:ディープ・パープル DEEP PURPLE
2:G線上のアリア AIR
3:プット・ユア・ドリームズ・アウェイ PUT YOUR DREAMS AWAY
4:アイ・ラヴド・ユー I LOVED YOU
5:夜の静けさに IN THE STILL OF THE NIGHT
6:モナ・リザ MONA LISA
7:愛のフィーリング FEELINGS
8:サティ:ジムノペディ Ⅰ GYMNOPEDIES Ⅰ
9:ユアーズ・トルーリー・ローザ YOURS TRULY ROSA
10:ハウ・ビューテイフル・イズ・ナイト HOW BEAUTIFUL IS NIGHT
11:イーヴンタイド EVENTIDE

まずは、このアルバムの市川正二さんが書かれたライナーノーツがとてもよく書かれているので、そこから引用してみる。

シンガーズ・アンリミテッドは数あるコーラス・グループの中でもきわめて特異な存在である。特異な点を列挙してみよう。
まず彼らはレコーディング専門のグループであって、ライヴ活動を行わなかった。と、過去形で書いてしまっていいのかどうか。正式な解散宣言が出されたわけではないが、この10年間というもの、まったくの音沙汰なしなので、もはや自然消滅したものと考えていいだろう。
次に彼らはジャズ/コーラスとしてはきわめて異例のア・カペラ(無伴奏コーラス)に挑戦。独自の世界を確立した。またテクノロジーの有効活用(多重録音)という点でも、素晴らしい成果をあげた。ア・カペラにしても多重録音にしても、別に彼らが最初に始めたわけではない。ゴスペルやR&Bの世界でア・カペラは昔から行われていたし、多重録音についていえば、彼らより20年以上も前にレス・ポールがギターでやってのけている。しかし、それをジャズ・コーラスの世界に移植した彼らの功績は絶大だ。

(中略)

なぜ、シンガーズ・アンリミテッドがア・カペラと多重録音のチャンピオンになったかという点について、思いを巡らせてみる。自然の成り行きだったのではないかというのが僕の結論だ。それは結成時のグループ状態と大いに関係している。そこのところを若干説明してみよう。
シンガーズ・アンリミテッドのリーダーはジーン・ピュアリングで、彼は1929年3月31日、ウィスコンシン州のミルウォーキーに生まれた。根っからのコーラス好きで、17歳の時にダブル・デイターズというユーモラスな名前のコーラス・グループを結成している。その後、53年にLAで男性4人組のハイ・ローズを結成。これで有名になった。ハイ・ローズは60年代にかけて多くの録音を行い、フォー・フレッシュメンに次ぐ人気グループだったが、64年に解散。そして3年後の67年にハイ・ローズ時代後期の同僚であるドン・シェルトン、それにレン・ドレスラー、ボニー・ハーマンを誘ってシカゴで結成したのがシンガーズ・アンリミテッドだったのである。ちなみにボニーの母親は、元ローレンス・ウエルク楽団の歌手ジュールズ・ハーマン。
結成は67年だが、デビュー・アルバムを録音するのは4年後の71年で、その間、彼らは一体なにをしていたか。普通のグループならライヴ活動ということになるのだが、前述したようにこのグループはライヴを一切やらないのが特徴。ここがポイントである。つまり彼らはシカゴでせっせとスタジオ・ワークをこなしていたのである。どういう仕事かというと、放送用のジングルやCM。昨今の日本だと、CFのバックに流れるタイム・ファイヴのコーラスをしょっちゅう耳にするが、ああいうのをやっていたのである。
そうしたスタジオ・ワークで会得したノウハウがア・カペラであり、多重録音だったわけだ。さきほど、自然の成り行きといったのはまさにこの点である。ビートルズの「フール・オン・ザ・ヒル」をピュアリングがアレンジしてア・カペラのデモテープを作成。それがオスカー・ピーターソンの手に渡ってレコード・デビューに至ったという経過も、こうした背景を考えれば、当然という気がする。彼らがコマーシャルな仕事に従事していたころの話はほとんど耳にしないが、実はこの時期にグループの個性は形作られた。だから、その当時のジングルやCMを集めたアルバムなんてのが登場したら、これは絶対面白いだろうと思う。

このアルバムは、最初の1曲目から、もちろん文句なしなのだが、2曲目のG線上のアリアといい、4曲目のアイ・ラヴド・ユーなどクラシックな空気のアレンジが絶妙。特にオーケストラのありようとのバランスが素晴らしく、つい聞き惚れてしまう。

7曲目の「愛のフィーリング」は、日本のコーラス・グループも持ち歌にしていたから、聴かれた方はハットするかもしれないが、もちろんまったくの別物といった風情。テンポをおさえたままに聴かせる技は、やはりこの種の原点なのだろうと思わせられる。
最高のおすすめは、アルバムタイトルにもなっている「イーヴンタイド」。市川さんのライナーノーツにもある大傑作「フール・オン・ザ・ヒル」にも通じたアレンジがまさに、シンガーズ・アンリミテッド風。素晴らしい。

ライヴはしなかったというが、ぜひ、いちど生で聴いてみたかったというのが、いつわらざる本心。しかし、いまやそれはかなわぬ夢とあれば、こうしてアルバムで聴くことができることさえ、素晴らしい体験と感謝しなければならないのだろう。それにしても彼らのアルバムは是非一家に一枚・・おすすめである。

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